ふわりと

初夏の風にレースがふくらむ。



見下ろした先には 穏やかな寝息をたてる姿があった。

「まったく、よく眠ってやがる」

ひょっとしたら 睡眠欲の少ない自分の周りには
そういった人間が集まってくるのかもしれない。

もしそうだとしたら、自分はそのことを喜ぶべきなのだろうか。

「…くだらねぇ」

ふと浮かんだ考えに かぶりを振った。







「……あ… と べ?」

数刻がたった頃、ちいさなつぶやきが耳に入った。

「…呼んだか」

それは久しぶりに聞く呼び名で、自分を指しているのだと気づくのに少々時間がいるものだった。

?」

「………れ?」

覗き込めば、ぼんやりと見つめかえす。

「起きたのか」

「ゆ め?」

「夢?」

「…ん。 夢、だった」

だろうな。と言って傍らに座る。
まだ寝ぼけているのか は不思議そうに首をかしげた。

「でも、あれ?なんの夢?」

「俺に聞くなよ」

「変だなぁ」

「夢なんてそんなもんだろ。
どれだけ見ても 覚えていられるのは一握りだ」

「…すごく、いい夢だったんだよ」

「覚えてないのになぜ分かる」

「あったかいから」

「……ふぅん」

あったかい。ときたか。

「…わたし なにか言った?」

微かに浮かんだ笑みに気づき、はいぶかしげな表情を作ったけれど

「まぁ、いいじゃねぇの。悪夢じゃないことは確かなんだろ」

「そう…だけど」

いまいち納得できない表情のまま、けれど彼女はきっと深くは考えないだろう。

自分が笑った意味など。



「…それよりおまえ、昼寝しに俺の家まで来たのかよ」

「ううん。宿だ…えっ?今…うそっ!なんで起こしてくれなかったのよ!」

大慌てでバッグをひっぱりだすに、学習能力のないやつだと肩をすくめる仕草も
今では自分を構築するもののひとつだということを改めて感じる。





「跡部…ね」

「え?なに?」

「なんでもねぇよ」



それはまだ、ふたりが今のような間柄ではなかった頃の呼び名。