せめてもの感謝の印だからと生徒会室を片付けているを戸口に立って眺めていた。
なにも今することはないだろうと言えば
テニス部の部室は綺麗に片付いてたわねと切りかえされた。
口の減らないやつだ。
言葉にする術さえ知らずにいたあの頃へ
「おい、そろそろ」
「あ、うん」
左腕の時計をあらためると、謝恩会までの時間が迫っていた。
「これだけ片付け…よいしょっ」
重そうな冊子を数冊かかえ上げてふらふらと歩く。
「過去の生徒会誌か」
「そうそう」
ドサリと音をたてて棚に置く。
反動で黒い髪が肩から滑り落ちた。
「…おい」
「大丈夫。わたしにさせて」
向けられた背中がきっぱりと告げる。
ここは自分の領域だと
「…なに勘違いしてやがる。さっさと終わらせろと言っている」
「あはは。そうだね」
ダンボールに埋もれた部屋に笑い声が響いた。
「で、結局 遅刻するわけだな」
「ごめんごめん!」
軽い足音を立てて渡り廊下を走る。
「冗談じゃねぇ」
「ほらほら!主役は遅れて登場って言うじゃないの」
楽しげに節をつけて言う。
馬鹿じゃないのか、息があがってるくせに
「くだらねぇ」
「そう言わないでよ。待ってくれて感謝してるって」
「へぇ、初耳だな」
「空気を読めよ!」
「できない相談だな」
「むっかー!」
「ふん」
ホールに着くや否や前かがみになったは、ゼィゼィと肩で息をしていた。
その格好は余計苦しいだろう。
変なやつだ。
「運動不足だな」
「…余計なお世話です」
いまいましげに見あげてきた顔を見てふきだした。
「汗だく」
「…っ」
ポケットから小ぶりのハンドタオルを引っ張り出すと顔をガシガシと拭く。
「跡部のテンポに合わせればそうもなるよ」
「俺の?」
「うん。跡部の」
「……」
そんなにトロトロ走ると思ってるのかよ。
「あーあ。これでテニスする跡部も完全に見納めか」
太陽は顔を見せることなく今日は沈むようだ。
学校の敷地外れにある 礼拝堂はいつも以上に閑散としていた。
「あ?勝手に終わらせてんじゃねぇよバーカ」
そうだねと言って笑う。
違うだろ、そこはそうじゃねぇだろ
「跡部は続けるの?」
「…ああ」
「そっかー」
言葉が見当たらない。
よくあることだとは笑った。
それに対して異論はない。
事実、よくあることだ。
「別に。 見に来ればいい」
「見に?」
「ああ」
「…遠いよ」
「俺様の美技が見られるんだぜ?そんなの問題のうちに入らねぇよ」
「自信家だね」
「納得させる実力があるからな」
「はいはい、分かった分かった」
「………」
「…分かってるから」
ありがとう。と消え入りそうな声で言われた。
心臓が痛い。
「くだらないことを言うな」
「うん」
搾り出した言葉は不遜極まりなく
けれどそれが精一杯だった。
「跡部」
「またな」
「…うん!」
寝不足なだけだよと笑って両親と共に電車の中へと消えたの表情を
俺は 忘れる日が来るのだろうか。